【コラム】新年所感「丙午の光が照らす2026年・積み重ねの先に広がる景色」
JATO山下チーフディレクターより新年所感をお届けします。
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新年あけましておめでとうございます。
年が改まると、これからの一年、そして少し先の未来について、自然と考えたくなります。先のことは誰にも分かりません。それでも、新しい年の始まりには、これまでを振り返りながら、自分なりの視点でこれからを見通してみたくなるものです。
本年は丙午の年にあたります。
五行説で「丙」は、ろうそくの火のような小さな炎ではなく、地上を分け隔てなく照らす「太陽」を象徴します。また「午」は、太陽が最も高く昇る「正午」を意味します。
つまり今年は、真夏の昼下がりのように、最も強い光が降り注ぐ年だと言えるでしょう。その光は、新しい何かを生み出すというよりも、これまで積み重ねてきた努力や選択を、良い意味でも悪い意味でも隠さず照らし出します。積み上げてきたものが確かなものであればあるほど、その成果ははっきりと見えてくる一年になります。
2026年は、カレンダーを眺めるだけでも「何か起きそうな年」だと感じます。
世界では、冬・春・夏と、人が動く理由が次々に変わっていきます。スポーツをきっかけに感情が動き、国境を越え、人が移動する。
こうした流れを俯瞰すると、2026年は結果的に、世界全体が「スポーツツーリズムイヤー」と呼べるような一年になるのかもしれません。競技そのものを観ることだけでなく、その前後にどこを訪れ、誰と時間を過ごし、どんな体験を持ち帰るのか。スポーツが、人の移動や記憶の起点になる場面が、これまで以上に増えていきます。
実はこの動きは、スポーツの世界に限った話ではありません。
海外から発信される2026年の旅行トレンドを見ていくと、いずれも共通しているのは、旅行者が「自分らしさ」を求めるという傾向です。どこへ行くか以上に、なぜそこを選んだのか、そこでどんな時間を過ごしたのかが、旅の価値として重視されるようになっています。
国際スポーツの舞台では、日本人選手の活躍が印象に残る場面も増えています。
それは声高なナショナリズムというよりも、同じ瞬間を見守り、結果に一喜一憂するなかで、自分たちがどこに属しているのかを静かに確かめ合うような感覚に近いのかもしれません。大きな出来事が続くと、人は無意識のうちに、自身の立ち位置や価値観を見つめ直します。
そこに、もう一つの大きな変化があります。
2026年は、AIが「先進的な取り組み」ではなく、「使われていて当たり前」の存在になる年です。使うかどうかではなく、どう使いこなしているか。その違いが、現場や組織の力として見えるようになります。
観光や地域づくりの分野でも同じです。
AIは人手不足を補う有効な手段になりますが、すべてを任せれば良いわけではありません。どこをAIに委ね、どこを人が担うのか。その判断そのものが、その地域や事業の姿勢として問われるようになります。
一方で、中国からの海外渡航の動きも、単純に「戻っていない」と言い切れる状況ではなくなっています。
春節を中心に、日本のホテル予約が好調だというニュースも見られ、その背景には、中国からの個人旅行客の増加があるとされています。
ただし、かつてのように団体客が一斉に動く「大量・一斉」のモデルが、そのまま復活しているわけではありません。
政治的・経済的な要因も重なり、旅行のかたちはより分散し、個人単位での判断や嗜好が色濃く反映されるようになっています。
その結果、日本のインバウンド市場は、中国一極に依存する構造から、台湾や韓国、東南アジア、欧米といった市場と並走する形へと移行しつつあります。2026年は、そうした市場構成の変化が、よりはっきりと見えてくる年になるのかもしれません。
国内では、オーバーツーリズムへの対応も本格化しています。
入域制限、価格調整、予約制、時間帯分散。これまで議論にとどまっていた対策が、運用の段階に入りつつあります。政府による積極的な財源投入も続き、短期的には効果が見えやすい局面です。
ただし、AIの導入も、財源の投入も、それ自体が評価され続ける時代は長くありません。
2026年は、それらが現場で本当に機能しているか、補助金がなくなっても続けられる設計になっているか、その差が静かに現れる年になります。
だからこそ、こう言えるのだと思います。
2026年は、「変えなくていい年」ではありません。
これまで、変えてきたかどうかが問われる年です。
新しいことを一気に始める年ではありません。
これまでの選択や積み重ねが、丙午の太陽の下で、はっきりと見えてしまう年です。
人は来ます。
しかし、すべての場所が選ばれるわけではありません。
制限があっても選ばれる場所。
AIを使っても、人の存在が感じられる取り組み。
補助金がなくても続き、混んでいても納得され、語る理由があり、また来たいと思われる場所。
2026年をどう迎えるかは、「何を新しく始めるか」よりも、
これまで何を変え、何を積み重ねてきたのかにかかっています。
年の初めに、そんなことを考えています。
今年も全国のみなさんとお会いできることを楽しみにしています。
何卒よろしくお願いします。
令和8年1月1日
山下 真輝

