【コラム】『山と生きる知恵と祈り~アドベンチャートラベルが授ける「生きる道しるべ」~』
山形県鶴岡市(庄内地方)から出羽三山(湯殿山)を経て、寒河江市や山形市(内陸部)へと通じる、全長約105kmの歴史ある古道「六十里越街道」。先日、専門家として六十里越街道をテーマにATを学ぶ研修会に参加したJATOチーフディレクター山下真輝から、コラムが届きましたのでお届けします。古道を歩くことを通して感じることができた所感を研修生に語った言葉です。他の地域でコンテンツを展開している方々やガイドのみなさまにも響く言葉かと思います。ぜひお読みください。
『山と生きる知恵と祈り~アドベンチャートラベルが授ける「生きる道しるべ」~』
◆アドベンチャートラベルが授ける「生きる道しるべ」
アドベンチャートラベルとは、その土地の固有性を伝えながら、参加した人に何かを持ち帰ってもらう旅だと私は考えています。旅を通じて一種のギフトを授け、生きるための道しるべのようなものを提示できれば理想的です。
いま世界には、日本人の生き方や自然観、宗教観に強い関心を寄せる人々がいると、私は感じています。これほど混沌とした世界情勢の中で、「日本に学びたい」という思いがあるのかもしれません。今回歩いた六十里越街道は、「山と生きる知恵と祈り」をテーマに、自然と暮らしと信仰をつなぐ道でした。

◆即身仏の傍らで、明るく語る人
旅の始まりは本明寺でした。この最初の場面のインパクトの強さは、参加者の間でも話題になっていました。
即身仏を前にすると、驚きや戸惑いを覚える方も多いと思います。そこにあるのは、究極の自己犠牲ともいえる世界だからです。
けれども私が最も印象に残ったのは、即身仏のすぐ横で、明るく話をしてくださった寺の方の姿でした。親しみやすく、どこか軽やかな語り口でした。普通であれば、あのような空気にはならないはずです。私は、あの明るさこそがこの土地の死生観なのだと感じました。
即身仏は、信仰の対象として、今も大切にされています。元は私たちと同じ人間でありながら、仏になっていった存在と受け止められています。未来の人々のために、自らを捧げ、自然とともに最期を迎えた。そう伝えられているこの祈りに包まれるように、いまもこの地で人々が暮らしています。即身仏を傍らに朗らかに語る姿は、その事実を何よりも雄弁に物語っていました。最初の場面には、それだけ大きなメッセージが込められていたのです。

◆森と峠、そして境界の道
そこから私たちは森を抜け、峠へと登っていきました。いまはギアもシューズもしっかりしていますが、昔の人々は大きな荷物を背負い、ぬかるんだ道を苦労しながら登っていったはずです。この道は物を運ぶ道であり、山へ向かう参拝の道でもありました。そして峠は、ある意味でこの世とあの世の境目のようにも感じられました。
出羽三山には、羽黒山が現在、月山が過去、湯殿山が未来を表すという考え方があると言われます。これもまた、日本人の自然に対する畏敬の念を象徴するもののひとつでしょう。そうした背景に思いを巡らせながら歩くことで、さまざまなことを考えさせられました。
旅は最後に注連寺へと至ります。森や峠を歩くこの一連の体験は、地域の自然、暮らしの文化、そして信仰がどのようにつながっているのかを考える旅だと思います。この歩く旅の中心にあるのは、土地の人々が山の恵みを受け取り、その厳しさと向き合いながら、暮らしと祈りをつないできたという視点です。

◆語られなかった物語を探求する
今回はプロの皆さんが集まっていたこともあり、「私ならこうできる」というアイデアがたくさん生まれたと思います。こうした場所を訪れた際には、ぜひ「今回は語られなかったけれど、本来語られるべきものは何だったのか」を、ご自身で深く探求してみてください。
私はいま、ここまで述べてきたように自分なりに旅を整理しました。こうした整理は、別の場所でツアーをつくるときにストーリーテリングとして生きてきます。私は初めて訪れる場所や初めて歩く道では、常に自分なりのストーリーテリングを試みています。それが私のマインドセットです。

◆ギブ、ギブ、ギブで、やっとワンテイク
最終的に、ガイド力とは人間力だと思います。今回、ガイドのサラさんが地元の方々ととても親しげに話している姿がありました。あの光景にこそ、ガイドの本質が表れていたように感じます。
日常的なコミュニケーションを重ね、持ちつ持たれつの関係を築くこと。ギブ、ギブ、ギブを重ねて、やっとワンテイク。世界のガイドたちも、そうした泥臭い積み重ねを大切にしています。その姿勢こそが、ツアーの付加価値として跳ね返ってくるのです。
ですから、ひとつの方法として、伝えるべきストーリーから逆算して考えてみることをお勧めします。そのストーリーを伝えるには、日頃からどんな人たちとコミュニケーションをとるべきか。どこをしっかり整備しておく必要があるのか。そこから、コンテンツの受け入れのあり方や、地域とのコミュニケーションのあり方が見えてくるはずです。

◆互いに得るものがある旅
今回は私自身にとっても、深く考えさせられる時間でした。アドベンチャートラベルは、つくる側にもインプットがあり、参加する人たちにも得るものがある、相互的でインタラクティブなツアーだと考えています。今回、庄交コーポレーションの後藤洋一さん、DEGAM鶴岡ツーリズムビューローのサラさんたちと地域との関係性を拝見し、改めてそのことを実感しました。


