【コラム】台湾に学び、台湾と組む~台湾登山国際検討会への参加報告と、台湾との交流によるAT推進について
JATO会員でもあり、JATO東北ディレクターであるインアウトバウンド東北取締役 後藤光正氏によるコラムをお届けします。

2026年8月24日・25日の二日間、台湾で初めて開かれた「與自然同行――臺灣登山國際研討會(Harmony with Nature: Taiwan International Mountain Forum)」に、日本からの登壇者の一人として参加してきました。主催は内政部国家公園署。アメリカ、ニュージーランド、チェコ、韓国、そして日本から、国立公園の管理者、研究者、そして私のような現場の事業者が集まり、議論を交わしました。二日間の議論は、日本のアドベンチャーツーリズム(AT)を考えるうえでも示唆に富むものでした。そして帰国後、台湾側から返ってきたひとつの反応が、私自身の認識を変えることになります。

1.台湾は、国を挙げて国立公園の国際交流に投資している
最初に驚いたのは、初開催とは思えない、この研討会そのものの規模と本気度でした。

主催は内政部国家公園署(National Park Service, Ministry of the Interior)。日本でいえば環境省にあたる政府機関です。招かれたのは、国立公園発祥の地であるアメリカ、Great Walksで知られるニュージーランド、ヨーロッパからチェコ、そして韓国と日本。パネルディスカッションにはシンガポール、マレーシア、香港からも登壇者が加わりました。開幕はブヌン族による「森の声――森と共に生きたブヌンの記憶」の演奏。

研討会のあとには、海外ゲストと、台湾の登山関係者、そして登山を愛する一般参加者が交流しながら、タイプの異なる三つの国立公園(苗栗=雪覇/南投=玉山・八通關/花蓮=太魯閣)を巡るハイキングプログラムまで用意されていました。会場は、国立政治大学(NCCU)公企中心の国際会議ホール(台北市大安区金華街)。2022年に開館した建物で、旧施設の砂利を埋め戻し材に再利用し、施工時の廃棄物と二酸化炭素の排出を抑えたことなどから、グリーンビル認証の最高位(ゴールド級)を受けています。低炭素・持続可能という研討会のテーマは、会場そのものにも通じていました。
台湾には3,000mを超える山が200座以上あります。国土の多くが山地で、最高峰の玉山は3,952m、富士山より高い。その山々を国立公園としてどう管理し、どう使ってもらうか——それを国際的な議論の中で考えようとする姿勢が、行政の側にはっきりとありました。
日本から見て、これは率直に学ぶべき点だと感じました。

2.各国の発表を貫いていたのは「バランス」だった
二日間の議論を一語でまとめるなら、「バランス」でした。

かつての国立公園は、地域との調和というより、管理する側の論理が前に出ていたように思います。資源をどう使うかも、公的機関が主導して決める場面が多かった。その結果、各地で摩擦が生まれ、とくに公園内で暮らす先住民族や地域コミュニティが、その影響を受けてきました。しかし各国の発表は、そこから協働へ舵を切った経緯を、成功も失敗も含めて語るものでした。
アメリカのBenny Bobowski氏(Bcurious LLC代表、米国国家公園署 元職)が紹介した「Elegant Conservation(優雅な保全)」という言葉が印象に残っています。異なる利害を持つ人たちが、同じ保全ビジョンの中に自分自身の価値を見いだせるようにする。そして、意見の違いが存在すること自体を尊重する。撃ち合う前に、まず座って話そう——という考え方です。
ニュージーランドの発表は、私にとって最も刺激的でした。保全省(DOC)の首席商業・収益顧問であるSteven Kerr氏は、Great Walksを一本の歩道ではなく「商品(Product)」として捉えていました。翌日には、アベル・タスマン国立公園で実際に事業を営むWilsons Abel Tasman社CEOのDarryl Wilson氏が登壇します。
その鍵が「Concession(特許・許可)」制度でした。民間事業者は自然保護のルールを守って事業を行い、利益を得る。政府にも還元される。旅行者は対価を払って良い体験を得る。そして満足した旅行者が、自然環境の守り手になっていく。品質保証制度Qualmarkがあり、Wilson氏の会社はその最上位認証を取得しています。環境利用料は徴収され、その使途は公開されています。
「観光か保全か」ではないのです。「良い利用が保全を生む仕組みを、どうつくるか」。これが、いま世界が立っている場所でした。
チェコのボヘミアン・スイス国立公園管理局からは、広報官のTomáš Salov氏と副局長のRichard Nagel氏が登壇しました。長期の干ばつとキクイムシ被害で公園面積の三分の二を占めた非在来種のトウヒが枯死し、2022年には大規模な森林火災に見舞われた。それでも管理局は大半の区域を自然の遷移に委ね、火災跡地には教育施設やバリアフリートレイルを整備して、「自然のプロセス」そのものを来訪者に伝えているといいます。災害を復旧するだけでなく、学びの機会に変えている。
標識と情報の設計も印象的でした。約80km²の園内に120km以上の登山道が整備され、ドイツ側のザクセン・スイス国立公園とも接続している。その標識は、NGOのチェコ・ツーリスト・クラブが運営する全国統一システムによるもので、管理局はこの民間団体と緊密に連携しています。さらに地図アプリMapy.comと連動し、来訪者は自分で行程を組み、閉鎖情報も確認できる。主要ルートには自動カウンターが設置され、利用者数の把握と、生態系への影響評価に使われています。データで公園を経営する、という発想でした。
韓国国立公園公団のHyun Byungkwan処長の発表も忘れられません。国立公園が提供する健康・癒しのプログラムには、幼児や高齢者だけでなく、妊婦、障害のある方、PTSDを抱える消防士、保護観察中の青少年までが対象に含まれていました。国立公園は自然保護の場であると同時に、社会を支える公共サービスの場でもある。そういう位置づけです。
3.日本から話したこと——「山旅」という提案
私の発表タイトルは「保全と利用――低炭素で持続可能な登山の推進と、地域の誇りの形成」。話したのは、東北で取り組んでいる「山旅」のことでした。

単に山に登るのではなく、山から水へ、水から温泉へ、温泉から信仰へ、そして食へ、暮らしへ。山を歩くことを入口に、その土地にあるさまざまな関係性を知っていく旅です。磐梯・吾妻・安達太良を舞台に、温泉、食、酒、地域の暮らしを組み合わせた商品とブランドをつくってきました。磐梯朝日国立公園の福島エリアには火山が作り出す100年の盆栽の文化も1000年の温泉の文化もありますから、VOLCANO TRAILとして単に登頂を目指すのではなく、山麓文化に触れるBONSAI TRAIL、ONSEN TRAILといった歩くことで地域に接続する山旅を提供しています。
同時に、インタープリテーションとLeave No Trace(LNT)を通じて、責任あるハイキングをどう実践するかも話しました。自然からの贈り物を活かし、その使命と知恵を次の世代へ伝える。これが私たちの姿勢です。
また、パネルディスカッション「登山が流行するとき――創作者はいかに登山文化を形づくるか」には、山と溪谷社の五十嵐雅人氏と、登山コンテンツ・クリエイターの山下舞弓氏(「オトナ女子の山登り」主宰)が登壇し、マレーシアと香港のクリエイターとともに議論しました。民間主導でハイキングの商品とブランドをつくることは、日本でもまだ新しい取り組みです。正直なところ、これが国際的な場でどう受け止められるのか、話す前は分かりませんでした。

なお、日本からは東京大学准教授の山本清龍先生も登壇され、富士山と尾瀬を題材に環境の持続可能性を論じられました。富士山では従来の任意の保全協力金が義務化された登山料に置き換えられたこと、尾瀬は日本で七番目のゼロカーボンパークに指定されたこと。利用者自身が資源管理の費用を負担する仕組みへと、日本も動き始めています。台湾では収容力を施設のキャパシティとして捉えることが多いそうで、この考え方は関心を持って受け止められていました。
4.台湾からの反応で、私の認識が変わった
研討会のあと、現地の参加者の方が、各国の発表を丁寧に読み解いた長文の振り返りを公開されていました。
そこに、私の発表についてこう書かれていました。「山旅」は、より深く地域を知るハイキングである、と。自分たちが日本語でずっと説明してきたことを、台湾の方が台湾の言葉で言い当ててくださった。これは素直に嬉しい出来事でした。
しかし、もっと重要な一節がありました。
台湾でも民間主導でハイキング商品やブランドをつくる事例は非常に珍しい、あるいはほとんどない。長距離の国家緑道や国家歩道は基本的に中央政府や地方政府が整備しており、地域主体のトレイルはあるものの、商品開発やマーケティングでは日本の民間事業者ほど進んでおらず、政府の補助や支援に長期的に依存していることが大きな課題である——。
これを読んで、私の中で認識が変わりました。
私はこれまで、台湾を「学ぶ先輩」だと考えてきました。LNTの導入も、国が率先して保全に取り組む姿勢も、台湾のほうが日本より先を行っています。今回の研討会を政府機関が主催していること自体が、その証拠です。だから、まず学ばせてもらう相手だと思っていました。
その認識は間違っていません。ただ、一方通行ではなかったのです。台湾側は、日本の民間が積み上げてきた商品化や事業化の力を、自分たちに足りないものとして見ていた。つまり私たちは互いに、相手が持っていて自分が持っていないものを見ている。
これは、対等な交流が成立するということです。教わりに行くのでも、売り込みに行くのでもない。交換ができる。私が台湾との連携に手応えを感じているのは、この一点においてです。

5.なぜ今、台湾なのか
日本の地方インバウンドにおける台湾の位置を、数字で確認しておきたいと思います。
2025年、日本を訪れた台湾の方は676万3千人。前年比11.9%増で過去最高、韓国・中国に次ぐ第3位です。旅行消費額は1兆2,033億円で全市場中2位。リピーター比率は8割を超え、主要市場で最上位クラスにあります。そして、台湾旅行者のうち地方訪問を含む割合は75.6%——三大都市圏だけを回る人は24.4%にすぎません。訪日6回以上のヘビーリピーターは40.3%を占め、回数を重ねるほど、関心は地方固有の資源へ移っていきます。
つまり、日本の地方インバウンドの主役は、すでに台湾なのです。
にもかかわらず、ATの世界では「主要顧客は欧米豪の富裕層」という前提が定着したままです。欧米豪・中東はもちろん重要な市場ですが、その絶対数は台湾一国の半分以下です。地方が最も来てほしい市場と、ATが目を向けている市場が、ずれている。私はここに大きな空白があると感じています。
ただし、台湾市場に必要なのはハードな冒険ではありません。台湾の方が日本旅行に求めているのは、季節の景観、温泉、食、歴史文化です。観光庁のAT定義は「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上ですから、すでにある景観・温泉・食・信仰に、無理のない身体活動と質の高いガイドを組み合わせれば、それは立派なATになります。新しいアウトドア種目をつくる必要はないのです。
6.台湾×東北 National Park Journey Network
実は、台湾との関係づくりはすでに始まっています。
2025年11月5日、台湾の中華民国山岳協会と、磐梯朝日国立公園の「自然の活用と保全委員会」が友好連携協定を締結しました。相互の行き来と、保全の技術交流を進めるための枠組みです。
その先に構想しているのが、「台湾×東北 National Park Journey Network」です。

国立公園を共通言語に、台湾と東北の「歩く旅」をつなぐ。台湾側には高山・森林・原住民族文化があり、東北側には山・海・トレイル・温泉・地域文化、そして復興の歩みがあります。東北側のフィールドは二つ。磐梯朝日国立公園を舞台にしたMountain Journeyと、三陸復興国立公園とみちのく潮風トレイルを軸にしたCoastal Journeyです。
仕組みは4つの柱で考えています。旅行会社・DMC向けのB2B、個人旅行者向けのB2C、ガイドと地域コミュニティの連携、そして自然の保全と次世代への継承。台湾側にも東北側にも、それぞれ課題があります。台湾側は登山許可や山小屋予約の複雑さ、日本語で相談できる窓口の少なさ。東北側は魅力が海外に十分知られていないこと、旅行会社が商品化しやすい情報が整理されていないこと。その両方を、ひとつのプラットフォームで解いていきたいと考えています。
VISIT → CONNECT → EXPERIENCE → CONSERVE。訪れ、つながり、体験し、そして守る。東北と台湾を皮切りに、いずれアジアの国立公園ネットワークへ広げていければと思っています。
7.議論を、行動に変える
研討会は最終日、「永續登山宣言(Sustainable Hiking Declaration)」を掲げて閉じました。責任ある姿勢で山に入ること。自然と生態系を尊重し、文化遺産を大切にし、地域を支えること。低炭素・Leave No Trace・安全な登山を実践すること。ともにネットゼロを追求し、自然を守り、原住民族と文化を尊重し、健康と幸福を促すこと。そして――山へ向かう一回一回の旅を、人と自然が共に生きるための持続的な約束にしよう、と結ばれています。
先ほどの振り返りの投稿は、こう締めくくられていました。国際交流は重要だ、この研討会も毎年続けてほしい。しかし、交流した結果、何が生まれるのか。学びのうちどれだけを、実行可能なアクションに変えられるのか。議論を、実際に物事を動かす力に変えてほしい——。
これは、私たち日本側にもそのまま返ってくる問いです。
海外の事例を聞くことが成果ではありません。地域で試してみる。制度を変えてみる。民間と行政が一緒に動いてみる。ガイドの役割を広げてみる。利用から保全へお金が戻る仕組みを試してみる。そこまで進んで初めて、国際交流は地域の力になります。
この数年、台湾との間で続けてきたのは、商談ではありませんでした。共に歩き、共に話し、共に食べる。そのリアルな時間を、何度も重ねてきました。振り返れば、それがいちばん大きかったと思います。旅行会社へのセールスはもちろん大切です。ただ、それだけでは足りない。私たちは相手と同じ地図を見られているのか。ハンドルを、自分たちの手でちゃんと握れているのか。来てください、と言うのであれば、まず自分たちがその土地へ足を運び、地域に触れる。そこから始まるのだと、気づかされました。

仕事があるから台湾へ行く、商談があるから行く、ではありません。会いに行く。その一回一回が、相互交流につながっていきます。取引先の関係ではなく、コミュニティを一緒につくっていく感覚に近いのかもしれません。

自治体、民間、地域――関わり方はさまざまです。けれど、最初に動き出すのは、いつも何かに気づいた一人の個人です。アクションがなければ、リアクションもありません。まず誰かが一歩を踏み出す。その小さな一歩が、次の交流を呼び込みます。
台湾は、競争相手ではありません。同じ課題に向き合う仲間です。

そして、これは東北だけの話ではないと思っています。台湾の登山者が関心を寄せているのは、日本各地の山であり、海であり、そこにある暮らしです。東北で試した型が通じるのなら、それは全国の地域でも通じるはずです。
一つの地域が単独で海外の協会や行政と向き合うのは、決して簡単ではありません。しかし日本アドベンチャーツーリズム協議会(JATO)には、全国の地域と会員が集まっています。窓口をつくり、知見を持ち寄り、失敗も共有しながら進めていける。台湾との交流を、JATOとして取り組むテーマの一つに育てていけないでしょうか。
まずは、本年(2026年)12月または来年20271月に予定している台湾再訪の機会に、台湾の国家公園を視察し、現地の仲間とともに山を歩くことから始めたいと考えています。関心のある方は、ぜひ声をかけてください。

筆者
後藤 光正(ごとう みつまさ) 一般社団法人 日本アドベンチャーツーリズム協議会 東北ディレクター/合同会社 歩く東北研究所 代表社員/株式会社インアウトバウンド東北 福島支店長。福島県二本松市岳温泉の安達太良・吾妻自然センターを拠点に、磐梯朝日国立公園を舞台とした「山旅」の企画・運営に取り組む。みちのく潮風トレイル1,000km踏破。日本山岳ガイド協会 登山ステージI/自然ガイドステージI、Leave No Trace Level 2 インストラクター、Wilderness First Responder。Webサイト・連絡先はこちら

※データ出典
日本政府観光局(JNTO)訪日外客数、観光庁 訪日外国人消費動向調査(2025年)、観光庁「『一番楽しみにしていた観光スポット・行動』からみる需要について」、JNTO「台湾市場ターゲットの特徴」、観光庁「アドベンチャーツーリズムの推進」。
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